東京地方裁判所 昭和59年(ワ)15234号 判決 1986年1月30日
原告
奥村貞次郎
ほか一名
被告
渡辺千尋
主文
被告は、原告ら各自に対し六六四万〇七四〇円及びこれに対する昭和六〇年三月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
原告らのその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
この判決は、主文第一項に限り執行することができる。
事実
第一当事者双方の求めた裁判
一 原告ら
1 被告は、原告ら各自に対し三三六五万七五四一円及びこれに対する昭和六〇年三月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行の宣言
二 被告
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者双方の主張
一 原告らの請求原因
1 訴外奥村実(以下「実」という。)は、次の交通事故にあい、昭和五九年七月二一日死亡した。
(一) 日時 昭和五九年七月一九日午後一〇時四分頃
(二) 場所 千葉県市川市北方町四丁目一八六二番地の一先路上
(三) 態様 被告は、その所有の普通乗用自動車(習志野五八た五六三一、以下「加害車」という。)を運転して船橋市藤原町方面から市川市下貝塚方面に向け進行中、道路を横断中の実に衝突した。
2 被告は、加害車を所有し、これを自己のため運行の用に供していたものである。
よつて、被告は、自賠法三条に基づき原告ら(実を含む、以下同じ)が被つた損害を賠償する責任がある。
3 原告らは、本件事故により次のような損害を被つた。
(一) 治療費 一一〇万三八五〇円(原告ら各二分の一)
(二) 葬儀費用 一二〇万円(原告ら各二分の一)
(三) 逸失利益 五一七一万六〇八〇円
実は、事故当時三八歳であつて大谷工業出入りの左官業として働いており、死亡時までの一年間の平均月額収入は三二万三〇八三円であつたが、本件事故にあわなければ、六七歳まで稼働し、諸般の事情を考慮すると、少なくともその間昭和五七年度の男子三八歳の平均給与額三七万六一〇〇円を下らない収入を得ることができたものとするのが相当であるから、これを基礎とし、これから生活費三五パーセントを控除したうえ、新ホフマン方式によつて中間利息を控除して実の逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり五一七一万六〇八〇円となる。
37万6100円×0.65×12×17.629≒5171万6080円
そして、原告らは、実の父母として右逸失利益の損害を各二五八五万八〇四〇円宛相続した。
(四) 慰藉料 一五〇〇万円(原告ら二分の一)
実の死亡により原告らが父母として受けた精神的苦痛は甚大であり、原告ら各自の右苦痛を慰藉すべき金員の額はそれぞれ七五〇万円を下らない。
(五) 弁護士費用 三〇〇万円(原告ら各二分の一)
原告らが本件訴訟において負担すべき弁護士費用はそれぞれ一五〇万円である。
(六) 損害てん補 二一一〇万三八五〇円(原告ら各二分の一)
原告らは、自賠責保険から二一一〇万三八五〇円の支払を受け、原告らの前記損害に対し二分の一宛充当したので、原告らの損害は、合計五〇九一万六〇八〇円(原告ら各二分の一)となる。
4 よつて、原告らは、各自被告に対し前記の損害合計二五四五万八〇四〇円の内金二三六五万七五四一円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六〇年六月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する答弁
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は認める。
3 同3の事実中、原告らの自賠責保険からの既受領額は認めるが、その余の事実は不知ないし争う。
4 同4の主張は争う。
三 被告の過失相殺の主張
1 本件事故の原因が被告の前方不注視による過失にあつたことは認めるが、実にも、本件道路が幹線道路であり、しかも夜間であつたのであるから、道路を横断する際左右道路の車両の動静に注意して横断すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然と駐車車両の背後から横断した過失があり、その過失は極めて重大である。
2 よつて、右過失を斟酌し、原告らの被つた総損害額から四〇パーセント減額するのが相当である。
四 被告の主張に対する答弁
仮に、実に過失を認めるとしても、それは被告の過失に比して極めて軽微なものであるから、総損害額から五パーセント減額するのが相当と考えられる。
第三証拠関係
証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録等に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1及び2の事実はいずれも当事者間に争いがないから、被告は、自賠法三条により原告らに生じた損害を賠償する責任がある。
二 よつて、損害について判断する。
1 治療費 一一〇万三八五〇円
弁論の全趣旨によれば、実は、本件事故により事故当日から死亡するまで病院で治療を受け、その治療費として合計一一〇万三八五〇円の支払義務を負担したが、原告らが各二分の一宛支出したものと認められる。
2 葬儀費用 八〇万円
弁論の全趣旨によれば、原告らは、実の葬儀費用として一二〇万円以上の支払をしたものと認められるが、本件事故と相当因果関係のある損害としては原告ら各自につき四〇万円(合計八〇万円)をもつて相当と認める。
3 逸失利益 二九三四万三二五八円
弁論の全趣旨とこれにより真正に成立したものと認められる甲第三号証の一ないし一二の記載を総合すれば、実は、本件事故当時満三八歳の独身であつて、大谷工業株式会社出入りの左官として働き、事故前一か年間に平均して一か月三二万三〇〇〇円を下らない収入を得ていたことが認められるから、経験則により本件事故にあわなければ、実は、六七歳までの二九年間平均して少なくとも右と同程度の収入を得ることができたものと推認され、右推認を覆えすに足りる証拠はない。
そこで、右三二万三〇〇〇円を基礎とし、生活費を五割控除し、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して逸失利益の現価を算出すると、次のとおり二九三四万三二五八円(一円未満切捨)となる。
32万3000円×12×0.5×15.141≒2934万3258円
そして、弁論の全趣旨によれば、原告らは実の父母であり、実には他に法定相続人がいることが認められないから、原告らは、実の右損害を法定相続分にしたがい各二分の一(一四六七万一六二九円)宛相続したものというべきである。
4 慰藉料 一三〇〇万円
原告と実との身分関係、実の年齢その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、実が死亡したことに対する慰藉料は、原告らそれぞれにつき六五〇万円をもつて相当と認める。
5 過失相殺
成立に争いない甲第三号証の記載に被告本人尋問の結果と弁論の全趣旨を総合し、前記当事者間に争いない事実に徴すると、実は、事故当日大谷工業株式会社で働いた後会社の近くの飲食店で飲食したうえ、帰宅しようとしてタクシーに乗車して本件事故現場付近で降車し、本件道路を横断しようとしたのであるが、右道路は幅員約六・八メートルのいわゆる地方の幹線道路であつて夜間でも運行する車両が多いうえ、横断しようとした道路付近には駐車車両があつて横断しようとする付近右側から進行してくる車両の見通しが悪くなつているのにかかわらず、左右道路の車両の動静を十分確認することなく、小雨が降つているのに傘も持ち合わせていなかつたためあわてて道路を横断したことにより本件事故にあつたものと認められ、証人寳間義男の証言も右認定を覆えすに足りず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
右認定の事実によれば、本件事故の発生に関し実にも過失があつたことが明らかであるから、右過失を斟酌し、原告らの前記損害額から二割五分を減額するのを相当と認める。
6 損害のてん補 二一一〇万三八五〇円
原告らの以上1ないし4の損害合計四四二四万七一〇八円から二割五分を減額すれば、三三一八万七一〇八円(一円未満切捨)であるから、原告らの損害は、それぞれその二分の一である一六五九万二六六五円(一円未満切捨)であるところ、原告らは、原告らの右損害に関し自賠責保険から二一一〇万三八五〇円の支払を受けたことは当事者間に争いなく、これを二分の一(一〇五五万一九二五円)宛原告らの右損害に充当したことは原告らの自認するところであるから、原告らの残損害額は、原告らそれぞれにつき六〇四万〇七四〇円となることは計算上明らかである。
7 弁護士費用 一二〇万円
弁論の全趣旨によれば、原告らが本件訴訟の提起、追行を原告らの訴訟代理人に委任し、相当額の費用を負担したものと推認されるところ、本件事案の内容、訴訟の経過、本件の認容額その他諸般の事情に鑑みると、原告らが被告に対し支払を求めうる弁護士費用の損害額は原告ら各自につき六〇万円をもつて相当と認める。
三 以上の次第であるから、原告らの本訴請求は、被告に対し各自六六四万〇七四〇円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和六〇年三月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当であるからこれを認容するが、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言について同法第一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 塩崎勤)